伊東潤さんは歴史小説などを発表している作家。本人のサイトによると平清盛を主人公とした小説を執筆すべく準備をしていたところ、2012年の大河ドラマが平清盛であることを知り、企画をストップしたが紆余曲折を経て新書となったのだそうだ。
この本は大変密度が濃い。おそらく伊東さんは大量の情報を難なく捌くことができる方なのであろう。小説家の調査と構想が惜し気も無く披露されている。登場人物の立たせ方、事件の検証等、資料をさらうだけではなく、この人物はこう考えてこのように行動したのでは、という考察が緻密である。（平治の乱の清盛、殿下乗合事件の重盛など）ここまでやらないと物語の上で人物は動かないのであろう。
小説のための調査と構想が歴史の新書として執筆・編集されて世の中に出た。小説家の仕事はすごいと思わせられる1冊だった。
目次
第１章 平家の台頭
第２章 清盛、表舞台へ
第３章 平家政権の誕生と日宋貿易
第４章 清盛の夢と挫折
第５章 頼朝の挙兵と清盛の最期
この本の気に入っているところ
保元・平治の乱での摂関家の敗者たちを悪く書いていない。頼長の負傷を最前線で指揮をとった証拠、また信頼の大出世を信西が黙過していたわけではないので評価されるべき人物とする。
その一方、勝者の忠通が保元の乱後に信西に出遅れている旨を指摘し、父の忠実が後継に指名しなかったのもさもありなんと説く。乱の勝敗だけでは読みきれぬ緻密な分析、人物像の再構築がとても楽しい。
次に読みたい本
本文中で「人間の思考や行動には一貫性がある」とのことで紹介していた同じ著者による「天下人の失敗学」
まとめ
本書の執筆にあたり、日記を史実としそれだけでは不明な部分を軍記物や説話集で補完したという方針が明記されている。これは歴史ファンにとっては理想だと思う。
他にも平清盛について書かれた新書は多数あるが、本書はかなり密度の濃い方の一冊ではないかと思う。
また、清盛以前、忠盛・正盛についての説明がわかりやすい。科学的に証明する術はないが人物の行動からみた「平氏らしさ」「源氏らしさ」などにも触れていて、時々頬がゆるむような下りもある。
なお本書は2022年8月に加筆され、「平清盛と平家政権 改革者の夢と挫折」として朝日文庫より再販されているようだ。こちらもいずれ手に取ってみよう。
壇ノ浦に行ったら歴女モード炸裂。時間もあるし2012年の大河に合わせて出版された清盛本を一通り読んでしまおうと思ったわけ。