新書で名著をモノにする 平家物語 /長山靖生

壇ノ浦に向かう前に「90分で分かる平家物語」と合わせて手に取り、パラパラと読んだところわかりやすく噛み砕いて解説したものではあるが時系列にはなっておらず、平家物語物語としての解説本ではなかったため、向かう前に読むのはやめて戻ってから読んだ。

2011年12月刊行なので、こちらも大河ドラマにあわせて刊行されたものだと思われる。長山靖生さんは歯科医師にして評論家、アンソロジストとのこと。開業医の傍ら、執筆活動を行っているそうだ。
なお、新書で名著をモノにすると副題が打たれた光文社新書は他に一冊あるようだ。(牧野雅彦著)
新書で名著をモノにする 『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』

平家物語の解説というよりは、貴族政治から武家政治への移り変わりをダイジェスト的にまとめた書であった。この本の言葉を借りると「誰もが、自分勝手に生きながら、少しも自由ではなく自分自身ですら支配できない時代」についてまとめられた本である。

「90分で分かる平家物語」でざっくりと流れは把握している。より突っ込んだ考察を登場する人物群ごとに、皇族・貴族や武士、僧侶、女性たちに分けられており、さらに理解が深められた。現代社会の様々な物事心象との照らし合わせも面白い。

目次

第1章 平清盛は悪人か
第2章 貴族という「官僚システム」の腐敗、平家の変質
第3章 院 ─「代行」という無責任な権力者たち
第4章 山門・南都寺院という火種—-わがままな「知識」と「大衆」
第5章 戦う男を駆り立てるもの
第6章 女たちの物語
終章 「歴史」「物語」の使い方

この本を読んで知ったこと・調べたいこと

終章によると豊臣秀吉は秀吉以前に「最大の出世をした男」である平清盛を戦略的に真似ていたのだそうだ。赤間神宮の図録によると、赤間神宮にある平家一門の墓(七盛塚)は豊臣秀吉が建てたものなのだそうだ。そこで気になる秀吉と平家の関係。ハマる歴史沼。

次に読みたい本

  • 平家の群像 物語から史実へ/高橋昌明
  • 1日で読める平家物語/吉野敬介

まとめ

本文中に平家物語原文の引用がたまにあるのだが、現代語訳ができれば欲しかった。(実は古文を読むのはあまり得意ではない)終章の現代の「平家物語」文学の紹介も嬉しい。

しかし、「誰もが、自分勝手に生きながら、少しも自由ではなく自分自身ですら支配できない時代」はいつの世も同じなのだろうか。ここのところの世の中のあれこれを見ているとつくづくそう感じてしまう。この一文を知るために神の見えざる手により読むことになった本かもしれない。